遠く

 食べかけのお菓子が散らばる机の上に、夕日の斜光が伸びて、辺りを橙に切り取った。小さな手は橙色を遊ぶちょうちょうのように机の上をひらひらと動いていた。折り紙だ。二人、四本の手は紙を折っては開き、見本の本を指さしては折った。机に指がつくとそこから黒く長い影が机に伸び、さながら影絵だった。影は机の木目の上に踊り跳ねる。

 暖かな布団の中で寝返りをうち、また眠りに落ちていく。

 自然と肌に馴染むのどやかな風が、金色に照らされたカーテンをなびかせ流れてくる。ふいには折り紙が風で舞い、部屋に色を添えていった。長いあいだ同じ頁で言い合うふたりに入口から声がかかる。母親は戸口で夕日に目を細めて、二人は見上げて言う。そしてまた続きを始めた子を見てさらに目を細め、床に落ちた折り紙を一枚拾うと、腰をおろした。大きな影が加わった影絵ははじめのうちおのおの忙しく動いていたが、しばらくして動きが緩慢になってきた。二組の影はテーブルの舞台からいなくなり、夕日は落ち、光源を失った部屋は暗さを増していった。影絵はもうほんの僅かにしか伺うことはできないが、大きな影がなくなった、と唐突に電気がついた。紙飛行機が舞った。二人が声をあげる。用意されていた色とりどりの飛行機が母親の歓声とともに矢継ぎ早に放たれ、それはカーテンにあたっては落ちた。騒がしい声に満ちた。

 ゆっくり目を開けると、ワンルームの窓から夢と同じ夕日がさそうとしていた。そして確かそのあと父親が帰ってきて、部屋を散らかし僕らと遊ぶ母親を見て苦笑したのだと思い出した。
 エアコンの温度を上げて、布団を首までかぶり直した僕は、ふたたび休日のまどろみへ沈んでいった。
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