transition

 目を覚ますと、つけて寝ていた背中に、べったり緑の液体が貼り付いていた。目前の蔦からは新鮮な搾り汁がとめどなく滴り、一滴一滴が意思を持つかのように輝いて集まった結果、一面に緑の沼をつくっていた。蔦の体液にまみれた世界で、上を仰ぎ見ると、蜘蛛の巣のように張り巡らされたつるの複雑に重なるのが、はるか上に見えた。その隙間を縫って光が降りていた。光の柱の一つは、私のおなかの上に丸く温かみを与えてあった。緑に塗れた手を光にかざし、上に挙げる。ぬらぬらと光る手は自分のものとは思えず、液体が手首から胸へと垂れてくるのを茫然と眺めていた。さらに胸に流れ体に染みてくる感覚と、私が緑の世界に沈んでいくことは同義だった。私たちは互いに理解したとき、緑の安寧が心に満ち溢れた。時が無意味となって、しずくの落ちる音が世界のすべてになった。そのとき向こうから人がやってくる。覗き込む彼の顔は天上からの逆光で暗く、私の寝床になっている蔦のベッドへ手を伸ばす瞬間、彼の赤銅色の髪が上空からの強風に揺られ、はらりと舞い落ちるとそれは秋の枯葉だった。髪が伸びる先から落ち葉となって寝ころんだ私の上へ落ち、緑の水たまりに浸かった私を赤銅の毛布に包んで積もった。彼は隣に寝ころぶと、上空の光へと掲げられたままだった私の手に手を重ねた。
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